シリフ霊殿
Schild von Leiden

極東紅魔郷
 そういえば不法侵入の定義って何だろう。
 玄関から堂々と入ってくれば不法侵入にならないんだろうか。
 それとも家の主が嫌がればその時点で不法侵入なんだっけ。
 少なくとも閉めた玄関から強引に入ってきたら不法侵入だと思う。
 いや、これは強引というか何というか微妙なラインだけど。

「そーいやどっかで霧魔って霧の妖怪が火に弱いっていう記述があったなー」
「……」
「霧は水だし、蒸発しちゃうから火に弱いって話。試す価値はあるかな。だめもとで」
「ハハハ、そんな事を言って私をからかっているだけなのは分かっているぞ#奈々!
 この部屋に火はない。怯える私を見て楽しもうとしても……」
「そういえば今年は少し早めにストーブを出したんでしたー。スイッチオン!」
「ギャァァァァァ!!」
 あ、ホントに効いた。





 何、霧になればあたしに気付かれずに忍び込めるとでも思った訳?
 それ無理だよ。
 確かに霧になれば気配は感じにくいしドアの隙間も潜り抜けられるだろうけどさ。
 だって、あんたの霧紅いんだもん。
 部屋中が紅い霧に覆われればそりゃ気付きますって。
 窓からの太陽光まで遮断して、お前はレミリア・スカーレットかっつーの。
 さしずめ咲夜さんがアッシュでパチュリーがスマイルだね。
「何の話だ」
「ごめん他ジャンル。で、何?」
「何とは?」
「何の用があってここに居る訳」
 ホットチョコを飲みながら横目で訊ねると、ユーリは隣のソファでかなりカッコつけたポーズをしながらフッと笑った。
「愚問だな」
「一言返すのに随分と無駄な動作をしますねあんたは」
 ついでにごめん、マグカップ片手じゃ哀しいほどポーズが決まらない。



「今日は#奈々の誕生日だろう?」
「あっ、そういえばそうでしたね」
 古今無双の変態の口から出た台詞は、意外にもかなりまともなものだった。





「そういう訳でプレゼントを持ってきた」
 ユーリはそう言って何処に入れてたのかでかい包みをあたしに向けて差し出した。
 物に罪はないのでとりあえず受け取っておく。
「選ぶのに苦労したぞ」
「それはまぁどうも」
 開けてみると、これからの季節重宝しそうな可愛いセーターだった。
 何だ、こいつにしちゃまともなチョイスじゃないか。
 てっきり電動の○○○とか○○○○○の詰め合わせとか新作の○○かと思ってたよ。
「ありがとう」
「何、これぐらい」
「ちなみに男が女に服を贈る意味を知ってる場合今の言葉は取り消しとなる」
 確か『脱がせたい』とかそんな意味があった筈だ。
 そんな煩悩に塗れた考えばかりじゃないだろうとは思(いたい)のだけれども、
 やっぱり日頃の行いというかが気にならない事もないので、そっとユーリの顔を覗き込みながら聞いてみる。
 ユーリはさっきのかっこつけた表情とは裏腹に、真顔であたしを見ると言った。
「察しが良いな」
「そこは嘘でも首傾げとけよコノヤロー!」
「ぐはぁッ!」
 ちょっとでも期待したあたしの桃色吐息を返せ!
 思わず傍らにあった十字架(大)を掴むとユーリの顔面めがけて投げつけていた。
 (セクハラされたらぶん殴れるようにいつでも大きなのを持ち歩いている)
 吸血鬼の癖に十字架が鈍器にしかならないないのは腹立たしい事この上ない。
 今回もゴカッとか良い音がした割には鼻を押さえながらうずくまっただけだった。
 鼻血出したら更に変態臭さが増すだろうかとかどうでもいい事をぼんやり考える。
「……き、着てみてくれないか?」
「復活第一声がそれか」
 いっそいい度胸だ。
「まぁいいや。折角だし似合うかどうか着替えてみてあげる。覗かないでね」
 覗かないように何かで脅しといてやろうかと思ったんだけど、残念ながら丁度良い材料が見つからなかったから止めた。
 誰か吸血鬼の退治の仕方最新版とか出してくれないかな。



「うん、中々」
 予想に反してセーターは随分と良いものだった。
 サイズもちゃんと合ってるし。(それはそれで何だかなぁ)
 ていうかあのユーリが着替え中覗いて来なかったというのが何より不思議だ。
「何企んでるの?」
 思わずユーリを凝視すると、ユーリはマグカップの底に残ったチョコを啜りながら答えた。
「ふむ、#奈々は随分と私を信用していないのだな」
「そりゃまぁ、日頃の行いがあるからね」
「それは残念だ」
「そう思うならもう少し変態度薄めてくれないかな」
 ていうか、口の周りチョコついてるから拭いて。
 そしてこっち来ないで。新品のセーターにチョコの染みがつく。
「私のプレゼントを#奈々が着てくれた、それだけで私は満足なのだがな」
「人の胸を揉みながら言うな。」
 武士の情けでセーターはもらっといてやるから即刻帰れ。



友人サイトへ。あほのこイメージしかないのでよそ様の子がかっこよくて辛い
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