「鬼道君は口癖を『ぷにっ』とかにしてみれば良いと思うんだ」
出し抜けにクラスメイトからそんな事を言われた俺は一体どう反応すれば良かったのか。
放課後、部活に向かおうとした直後の日直からの一言。
勿論脈絡というものは無いに等しい。
「……何処からその発想が出てきたんだ」
とりあえず一言言い返すと、は何処だったっけね、と言って首を傾げた。
自分でも覚えていないのか。
「ギャップ萌えをニッチな方面に考えてみた結果だったかな?」
「考えてどうするんだ」
「いや別にどうもしない」
思ったから言ってみただけ。
けろりと言って笑っている。反射と感覚でものを言う人種らしい。
部にも若干名そこに属する人間は居るが(筆頭を上げると円堂あたり)、
言われた側の理解度という点ではこの女に遠く及ばない。
「ぷにっていうの、駄目?」
「駄目に決まっているだろう」
「ちぇー……じゃあ、鬼道じゃなくてきどぅって呼ばれてみるとか」
「論外だ」
「えー」
そもそも何故いきなりそんな事を言い出したのか。
問い掛けてまともな返答が返って来たためしは無いが、それでも毎回聞かずにはいられない。
「全く、何がしたいんだお前は」
「えー」
またしても首を傾げている。
やはり聞くだけ無駄だったか、と思った途端、は真っ直ぐこちらを見つめて、そして答えた。
「なんか、鬼道君の特別なものが欲しいって、思ったんですよ」
「……な」
「分からなきゃいーよぅ」
答えるよりも先にはさっさと鞄を持って教室を出て行ってしまった。
夕日の色に染まった教室に一人で取り残される。
何と答えれば良かったのか、そもそも自分はそれに対してどのように思ったのか、
早く部活に行かなければと急く気持ちもあってさっぱり思いつかない。
ただ、拒絶しようと思わなかった事だけは確かなのだった。
無自覚初恋。かわいい